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学校で体罰を受けたらどうすればよいのか

浜松日体高校の体罰動画は衝撃的だった。

ところで、読者が中学生か高校生だとして、学校で教師からこのような体罰を受けた場合、いったいどうすればよいのだろうか?

結論は、「弁護士に相談する」に尽きる。多くの弁護士事務所は電話やメールで問い合わせを受け付けているだろうから、まずは恥ずかしがらずに弁護士事務所に連絡をとってみてほしい。すべてはそこからスタートする。

この記事では、読者が中学生か高校生であると想定して、学校で教師から体罰を受けた場合、いったいどうすればよいのかを、基本的なところから考えてみたい。専門的な法律論は筆者には扱えないので抜きにして、中学の公民や高校の政治経済レベルの話を進めていく。

なお、この記事は法律家や専門家によるチェックを全く受けていない。素人の独断と偏見に満ちたメモに過ぎず、実践的なマニュアルとしては完全に無力だ。そのため、数多くあるであろう改善すべき点は、遠慮なく指摘していただきたい。また、判例等の情報も著しく不足しているため、そのような情報提供も大変ありがたい。

1.学校で教師から体罰を受けたのなら、それは異常事態である

日本の学校では、教師が生徒に体罰を加えることは禁止されている。学校教育法11条にはこう記されている。

学校教育法11条
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない

まったく驚くような話だ。このような条文があるにもかかわらず、実際には数えきれないほどの体罰がこれまでに存在してきたし、今もなお存在している。

<法律は現実を投影したものではない>
ところで、読者のなかには、財布や現金、携帯電話や自転車といった高価なものを盗まれた経験がある人もいると思う。これは窃盗罪(刑法235条)という立派な犯罪の被害にあったということだ。

刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する

このような条文があるにもかかわらず、実際には窃盗の被害は後を絶たない。つまり、罰則が定められているからといって、窃盗がこの世から無くなるわけではない。

<体罰はどうなるのか?>
窃盗の場合と同じように、法律では体罰は禁止されているにもかかわらず、現実には体罰はまったく無くなっていない。けれども、10万円が入った財布を盗まれることが異常事態であるのと同じように、学校で教師から体罰を受けるということは、法律に反するという点で、異常事態である。この異常事態に対して、私たちはどうすればよいのだろうか?

2.刑事裁判と民事裁判

学校で教師から体罰を受けたという異常事態に対して、私たちが取れる手段は2つある。「刑事裁判」と「民事裁判」だ。

浜松日体高校の動画が公開されたとき、ネット上には「これは暴行罪である」、「なぜこの教員は逮捕されないのか?」といった書き込みが多く見られた。これらの書き込みが想定しているのは、もっぱら刑事裁判である。一方で、民事裁判を想定した書き込みはあまり見られなかった。民事裁判を想定した書き込みとは、おそらく「この教員を訴えて損害賠償を請求するべきだ」といったものになるだろう。これから述べるように、刑事裁判と民事裁判はまったく異なる性質のものだが、両者はどちらも重要だ。残念ながら、ネット上の書き込みをみる限り「民事裁判はマイナー」なのかもしれない。しかし、私たち一般人にとっては、民事裁判の方がはるかに重要であることを忘れてはならない。

それでは、実際に「刑事裁判」と「民事裁判」の違いを確認していく。

3.刑事裁判とは何か?

刑事裁判とは、すごく簡単に言えば、「国家 vs 被告人(犯罪者らしき人)」の争いだ。ここでいう「国家」には、検察が属する(とりあえず、ここでは「検察=警察の仲間」くらいの認識でよい。警察も検察も「国家」に属する)。一方で、「被告人(犯罪者らしき人)」とは、一般人でありながら、犯罪者とみなされて警察に逮捕され、裁判にかけられた人を指す。ただし、被告人は単独で争うわけではなく、弁護人(弁護士)が被告人をサポートする。国家は「被告人が犯罪を犯したこと」と、「被告人に対して刑罰を科すこと」を裁判所に認めさせたい。それに対して、被告人は「犯罪など犯していないから無罪にしてほしい」、「確かに犯罪を犯したが、今は十分に反省しており、もう二度としないので刑を軽くしてほしい」といったことを、弁護人のサポートのもと、裁判所に認めさせたい。裁判所は、両者の言い分を聞いた上で、判決を下す。判決は、たとえば「被告人は無罪」あるいは「被告人を懲役3年に処する」といったものになる。

しかし、これから述べるように、すべての事件が刑事裁判に発展するとは限らない。それどころか、逮捕にさえ発展しないこともある。浜松日体高校の体罰教師についても、これまでのところ逮捕されたという報道はない。なぜだろうか?

4.「通報」によって警察が動くとは限らない

浜松日体高校の動画が公開されてから、「これは暴行罪なので警察に通報した」という書き込みが多く見られた。「通報」は警察に事件の存在を知らせるための重要な手段だ。ここで、次の図を見てほしい(警視庁HPの図を簡略化。2013/9/25。http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/soudan/hanzai/hanzai2.htm)。

①犯罪の発生
  ├通報
  ↓
②捜査の開始
  ↓
③犯人の逮捕
  ↓
④送検
  ↓
⑤起訴
  ↓
⑥裁判
  ↓
⑦判決

①②③は警察が、④⑤⑥⑦は検察が、それぞれ担当する。①事件が発生しても、警察は世の中のすべての事件を認知しているわけではない。だから、一般人が通報することで、警察に事件を認知させることができる。通報を受けて、警察はまず、その事件が②捜査の開始に値するかどうかを判断する。捜査の開始に値すると判断した場合のみ、③犯人は逮捕され、図のようなプロセスをたどる。このプロセスは自動的に進むのではなく、警察と検察は十分に考えながら進めていくため、中断すること(犯人を逮捕しないことや起訴しないこと)はいくらでもある。

さて、報道から分かる範囲では、浜松日体高校の体罰教師は逮捕されていない。複数の「通報した」というネットの書き込みが真実であるとすれば、警察は浜松日体高校での体罰(暴行罪)を認知してはいるが、体罰教師を逮捕する必要性を感じていないことになる。上の図に戻ると、②捜査の開始に至っていないか、もしくは捜査は開始されているが、③犯人の逮捕には至っていないという状況だ。

一見、これはとても奇妙な感じがする。たとえば、学校の友人が覚せい剤を所持していることを警察に通報した場合、警察は絶対に黙っていない。すぐにその友人は逮捕されるはずだ。

なぜ、浜松日体高校の体罰教師は逮捕されないのだろうか?実際のところ、これは警察にしか分からない。様々な推測が可能だが、私なりの推測は次のようなものだ。暴行罪の「暴行」には、かなり広範囲の行為が含まれる。服をつかんだり、軽い物を投げつけるのも「暴行」に含まれる。このような行為はありふれたものであり、社会的な悪影響は小さい。いちいち警察が捜査を開始(あるいは犯人逮捕)していたらきりがないので、必要な場合にのみ「暴行罪」として捜査を開始(あるいは犯人逮捕)すればよい。それに対して、覚せい剤の所持を放置していたら覚せい剤はどんどん広まり、社会的な悪影響は計り知れない。覚せい剤の所持に関しては、通報があればすぐに捜査を開始(あるいは犯人を逮捕)する。

浜松日体高校の体罰には、捜査を開始する必要性、あるいは犯人を逮捕する必要性がないと警察は判断したのだろう。だから、体罰教師は逮捕されていないのだ。

5.刑事裁判の目的は「被害者の救済」ではない

そもそも、刑事裁判の目的とはなんだろうか?端的にいえば、それは「国家の秩序を維持すること」であり、「被害者の救済」ではない。もっとも、刑事裁判では「被害者の救済」がまったく考慮されていないわけではないが、それはオマケに過ぎない。仮に、浜松日体高校の体罰教師が逮捕され、起訴され、有罪判決を受けたとしても、それは体罰を受けた生徒が救済されることとは無関係だ。では、被害者はどのようして救済を求めればよいのだろうか?

6.「被害者の救済」は民事裁判の仕事

続く
by liberty-tower | 2013-09-18 07:04 | その他